AIで理論株価の計算をしてみたのでやり方を紹介します。
1.理論株価ってなーに?
理論株価とは
株価の値段は色々な要因で上下しますが、理論的には株価は「会社の資産価値」と「利益」により決まります。財務諸表などの数値を元に会社の価値を評価して算出した株価を理論株価と言います。
理論株価の要素1.会社の資産価値
株では無く、お金で考えて見ましょう。
1万円の現金の資産価値は幾らでしょうか?
1万円には1万円の価値がありますね?
1万円を100円で手放す方はいませんね?
会社も一緒です。
会社が持っている現金などの資産が会社の価値です。例えば、資産から負債分を相殺した純資産が100億ある会社には最低100億の価値があります。
株の所有者は持ち分比率(=所有株数÷発行済株式数)分の会社の資産を保有しているので、自分の所有する株の持ち分比率が1%なら、その株の価値は1億はあります。
理論株価の要素2.株の利益とは
会社は企業活動により利益を上げます。
上げた利益は会社の資産に組み込まれるか、配当として株主に還元されます。
どちらにしても資産が増えます。
(但し、会社が赤字なら逆に資産が目減りします。)
従って、利益を安定して上げている企業であれば、将来資産が増えることになるので、前述の資産価値以上の価値があると言えます。
理論株価の簡単な計算方法
凄く単純に考えると理論株価は以下の式になります。
理論株価
= 会社の現在の資産価値 + 将来の利益
= 純資産 + (配当利回り × X年)
理論株価をなぜAIで計算するのか?
理論株価が計算式で求められるのであれば、何もAIで計算する必要はありません。電卓があれば計算出来ます。
しかし、理論株価の計算は実はそんなに単純では無く、また、どれが正しいというものもありません。
理由は大きく2つあります。
- 資産価値の評価が難しい
純資産が会社の資産ではありますが、この資産の中には現金ではなく、不動産や債権などもあり資産の価格が計りにくい物があります。もしかしたら資産と思っていたものが不良債権で評価額程の価値が無いかもしれません。 - 将来の利益は予想でしかない
配当は出るか分かりません。将来の利益は予想でしかありません。
上記理由を考えると、単純に純資産と配当利回りで理論株価を算出するのではなく、財務諸表を読み込み会社の現在の資産価値と、将来の利益を予想する必要があります。
しかし、財務諸表の項目は膨大で、また何れを使うのが良いという経験則も様々です。
データが膨大で、法則も良く分からない物を解くのはAIの得意分野なので、AIに理論株価を計算してもらうことにしました。
理論株価は何に使えるのか?
理論株価は株価が割高か割安かの判断材料
理論株価は実際の株価が割安か割高か判断する1つの材料として使います。
株に限らず、商売の鉄則は安く仕入れて、高く売るです。
そのためには、その品物の適正な価格が幾らかを知る必要があります。理論株価は株の適正価格であり、株価が割安か割高か判断する材料になります。
2.理論株価をAIで計算する方法
理論株価をAIで計算する方法
東証一部上場の各銘柄の財務諸表を入力データ、出力データを株価とし、入力データから出力データを導く法則をAIに学習させました。
財務諸表データの入手方法
金融庁のEDINETから取得しました。
EDINETについてはこちらのページを参照ください。
財務諸表一覧・EDINETオンライン
教師データの内容
- 銘柄 : 東証1部の全銘柄
- 年度 : 訓練データ=3期分(2015年~2017年) テストデータ=1期分(2018年)
- 入力項目 :前年度の財務諸表+前年度の期末の株価+今季の財務諸表
- 出力項目 :今季の期末の株価
教師データの項目一覧
教師データの特筆点
- 前年度の財務諸表もインプットにした
会社の安定性などを見る上で前年度との比較は重要なので、前年度の財務諸表も入力データにしました。 - 前年度期末の株価もインプットにした
会社の経営状況で会社の価値は決まるという考え方だと、前年度の株価は不要ですが、実際のところ株価は過去の株価を参照し動いている部分もあるので、過去の株価もAIに教えました。
理論株価を計算するAIモデル
超シンプルな多層パーセプトロンでやってみました。フレームワークは手軽に試せるSONYのNeural Network Consoleを使用しました。
3.理論株価をAIで計算した結果
理論株価をAIで計算した結果
なんか、それっぽいです\(^-^)/
AIが予測した理論株価の的中率
AIの予想結果と実際の株価の乖離幅は平均10%以内でした。
理論株価をAIで計算した感想
- 思ったより精度が良かった
- 前期末の時価を与えてるから結果が良いのかもしれない
- 株価が高いか安いかの一つの目安には出来そう
4.理論株価を計算するAIの事例紹介
調べてみたら理論株価をAIで計算しようという試みの論文が東京大学から発表されていました。
深層学習を用いたアンサンブルモデルによる株主価値推定モデルの提案
AIによる理論株価計算の実験方法
論文では4つの方法で理論株価(論文では企業価値と表記)を求められていました。
名称 | 手法 | 説明 |
---|---|---|
EF | 古典的ファンダメンタル分先 | 財務諸表を用いた計算式による理論株価計算 |
MT | AIテクニカル分析 | 5年分の株価をLSTMで学習 |
MF | AIファンダメンタル分析 | 5年分の財務諸表データを機械学習 |
MTMF | MT+MF | MT+MF |
私なんぞが行ったなんちゃって機械学習ではなく、高度な検証をされております。
MTMFは財務諸表と過去時価から理論株価を出すというもので、考え方自体は当記事で紹介したものと同じかなと思います。
AIが予測した理論株価の的中率
手法 | 最大正解率 | 平均誤差率 |
---|---|---|
EF | 56% | 28% |
MT | 73% | 17% |
MF | 70% | 13% |
MTMF | 78% | 10% |
AIによる理論株価計算の実験結果まとめ
- 時価と財務諸表の両方を入力データにするのが最も精度が良い
- 財務諸表から計算式で理論株価を算出するよりAIの方が精度が良い
これだけ精度が良ければ、株の売買の際の目安に使うには十分だと思います。
もう少し検証してみて、うまくいったらツールとして公開しようと思います。
お楽しみにーー。